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ンゴ民主共和国キブ地方の昔話
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金持ちと貧乏人語り手:ダヴィッド・ビシームワ
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昔々のおはなしです。あるところに、金持ちと貧乏人とがおりました。 金持ちの家では正月の宴会のため、ヤギをつぶしてその肉で美味しいご馳走を作っていました。その時、金持ちの家の前の通りを貧乏人がやって来まし た。貧乏人はウガリをかばんの中に入れていました。金持ちの家の戸口にさしかかると、家の中からヤギの肉で料理を作る、なんともいい匂いが流れ出てきまし た。 「うーん、何ておいしそうな匂いなんだ。」そう言うと貧乏人はかばんの中からウガリを取りだして、肉を料理する匂いを嗅いではウガリを食べ、匂いを嗅いで はウガリを食べ、匂いをおかずにして、ウガリを全部たいらげました。 2日後に貧乏人は金持ちと道で出会いました。 「金持ちのだんな、ありがとうございました。大変おいしい肉料理をごちそうになりました。」 「は?一体いつごちそうしたと言うんだい?」 「えぇえぇ、お正月のことです。だんなの家の前を通りかかったら、肉を料理するたいへんいい匂いがしてきました。その匂いで私はウガリを食べて満腹になっ たんですよ。私は匂いをごちそうになりました。」 「本当かい?そういえばあの時のヤギ料理は美味しくなかったなぁ。それはお前が匂いを取ってしまっていたからだ。匂いを盗んだ罪で訴えるぞ!」 金持ちはさっそく裁判所へ行き、こう訴えました。 「1人の貧乏人が私の家の前に来て、私のヤギを料理したいい匂いを盗みました。料理の匂いを盗まれたおかげで、ヤギ料理が大変まずくなってしまったので す」 裁判官は金持ちにどうしたいのかと聞きました。 「私は貧乏人に私から盗んだ匂いを弁償させたいのです。」 そこで裁判官は、金持ちと貧乏人を呼んで判決を下すことにしました。 裁判官は貧乏人に訪ねました。 「お前は金持ちのヤギを料理する匂いを盗んで食べてしまった。それは本当か?」 「ええ、私がお金持ちの家の前にさしかかると、ヤギを料理するとてもいい匂いがしてきました。その匂いで、私はウガリを食べたんです。匂いをおかずに食べ たことには間違いありません。」 裁判官は言いました。 「お前はヤギを弁償しなければならない。それはお前がヤギの匂いを食べてしまったからだ。」 「いいでしょう。お払いしますよ。今すぐここでお払いします。」 「では払ってもらおう。」と裁判官は言いました。 貧乏人は側にいた友達にコインを2枚貸してくれるように頼みました。 「すぐに返すからお金を貸してくれ。」 貧乏人はコインを2枚借りると、 「さぁお払いしましょう。」と言って、前にあったテーブルの上に2枚のコインを投げつけました。コインは音を立てて落ちました。貧乏人は金持ちに聞きまし た。 「今、何が起こったでしょうねぇ。」 金持ちは「お前さんのお金が音をたてたんじゃないか。」と、言いました。 すると貧乏人は「では私のお金の音を弁償して下さい。あなたは私のお金の音を聞いてしまったのだから。あなたが私のお金の音を持って行ってしまったので、 私はこのお金でもう買い物ができないのです。」 そこで裁判官は言いました。 「これで一件落着。貧乏人は金持ちのヤギ料理の匂いを取ってしまい、肉が不味くなったが、金持ちは貧乏人のお金の音を聞いてしまい、買い物が出来なくなっ た。これでどちらも弁償は済んだ。問題はなくなったな」 そして金持ちも貧乏人も家へ帰って行きました。お話もこれでおしまい。 訳・絵 伏原納知子
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