コ ンゴ民主共和国キブ地方の昔話
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話す骨

語り手:バサボセ・カニュニ
挿し絵・訳:ふしはら のじこ
 
   あるところに1人の男がいました。その男は自分の村を出て、あちこち旅していました。
 その男は、おしゃべりな男でした。ある日、森の中で人の骨に出会いました。頭の骨がそこにありました。男は骨を見て
「おいおい、どうしたんだい」と言いました。すると骨が
「私がこんな姿になってしまったのは、しゃべりすぎのせいなんだ」と言いました。
「えっ本当かい」と男はたいそう驚きました。
「そうなんだ。ところで見るところ、お前さんもそうとうおしゃべりみたいだけど、私の様な目に合わないといいんだけどね」と骨は言いました。
 男はその骨をひろい、かばんに入れて、村へ向かいました。
「これで村に着いたら、話すことがいっぱいあるぞ」
 そして、ある村にやって来ました。村に来た時にはまず、村の長老のところを訪ねて挨拶に行くのが礼儀です。
 男は村の長老たちを訪ねると、王様に会いたいと言いました。長老たちが何故王様に会いたいのかと尋ねると、男はこう言いました。
「とても大切ないいことがあるので、王様にお目通りさせてください」
「それはどんなことなんだ」と長老たちは聞きました。
「とてもいいことがあるのです。王様に会わせてくだされば分かります」
「王様はそんな訳の分からないことで、人にお会いにならない。まず我々に話をして、我々が王様にその話をお伝えしようじゃないか」
「私はとても大変はものを持っているのです。ここにあるこの骨、この骨がしゃべるのを王様にお見せしたいのです」
「ええっ!骨がしゃべるのか。それは驚きだ。では王様のところへ連れて行ってやろう」
 こうして、男は王様の前へ案内されました。男は言いました。
「私はここに、大変なものを持ってまいりました。ここにあるこの骨、これはしゃべる骨でございます」
 王様はその話を聞くと、
「それは本当か、そんな大変なことは聞いたことがないぞ。私1人で聞く訳にはいかない。村中のものを呼び集めてから、披露してもらおうじゃないか」と言いました。
 コンゴでは、人々を集める時に太鼓を叩いて呼びます。人々は太鼓の音色を聞いただけで、伝言の意味を聞き分けることができます。
 王様は男に言いました。
「お前の言うことを信じて人々を集めるのだから、もしそれが嘘だったら、お前の命はないぞ」
「はい、承知しております」と男は答えました。
 王は太鼓を鳴らし、村中の人々を呼び集めました。王様は普段はめったに人の前に姿を表したりしないのですが、この日は特別に人々の前に出て、
「この男が大変なものを持って来た。それを今からここで披露するぞ」と、自ら話しをされました。
 とても大勢の人が集まって来ましたので、しゃべりたがりの男は大喜びで人々の前へ出ました。
「私はここにあるものを持って来ました。これを皆さんにお見せしましょう」
そう言うと、骨を取り出しました。男は話しながら、おもむろに骨を机の上に置くと、人々はしーんとして息をのみました。
「おい骨、なんでお前はそんな姿になったのか言ってみろ」男は骨に呼びかけました。骨は何も答えません。男は目玉が飛び出しそうになりました。
「おい、さっき何を言ったか思い出せよ。さっき言ったことを話してくれよ。どうしてそんな姿になったのか、言ってくれよ。どうしたんだ」
 骨は何も話しませんでした。
 王様は、たくさんの人を呼び集めたのにその前で恥をかかされ、大変怒って、服を引きちぎり、帰って行きました。
 長老たちは「なんということだ、えらいことになってしまったぞ」と慌てて、男を殺すことにしました。王様の家来が男を殺してしまいました。すると、その時に骨がしゃべりました。
「ほら、言ったじゃないか。私はしゃべりすぎがたたって死んだんだ。お前さんも気をつけろと言っただろう」
 人々はたいそう驚きました。
「本当に骨がしゃべったぞ」
 でも、もうその時、男は殺されてしまっていました。
「私はしゃべりすぎて死んだと言ったじゃないか。せっかく注意してやったのに、やっぱりしゃべりすぎて死んでしまったな」
と、骨は言いました。
 このお話が教えるのは、大切なことはすぐ人を呼び集めて話してしまわないで、まず信頼のおける友人の1人か2人に相談してから、皆の前で披露しなさいということです。