コ ンゴ民主共和国キブ地方の昔話
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おんどりとねこ

語り手:バサボセ・カニュニ
 
  おんどりとねこ むかしむかし、おんどりとねこは仲の良い友だちでした。おんどりはいもが大好きでしたが、おんどりのおかみさんは料理が下手だったので、いつもいつも、 焦げついたいもばかり食べさせられていました。 ある日、おんどりが焦げたいもを食べていると、ねこがやって来ました。
「おやおや、何てひどいいもを食べているんだい。ぼくの家へ来てごらん、ほっぺが落ちそうないもの料理をごちそうしてあげるよ」 おんどりは喜んで、さっ そくねこの家を訪ねることにしました。
 ねこの家を訪ねる日になると、おんどりは一番いい服を着て、おめかしして出かけて行きました。ねこの家では、ねこがかまどに鍋をかけ て、いもをに煮ていました。コンゴの小さな家では、ふつう同じ部屋の中に、かまどとベットがあります。ねこは煮えている鍋にふたをすると、近くにあるベッ ドの下にかくれてしまいました。 約束の時間になり、おんどりがやって来ました。コンコンコンと戸をたたきましたが、返事はありません。もう一度たたきま したが、誰も出てきません。おんどりは、おめかしした服のほこりをはらい、ねこの家の前に立っていました。
 でも、いくら待ってもねこは出てきませんでした。おんどりは、約束の日を間違えたかと心配になって来ました。 ねこの家の戸を開けて中をのぞいてみます と、かまどで鍋が煮たっていました。
「ねこさん、ねこさん」
 おんどりが呼んでも返事はありません。煮たっている鍋のふたを少し開けてみると、中ではいもがおいしそうに煮えていました。「どうやら、約束の日を間違 えたのではなさそうだ」
 おんどりはまた戸口に立って、ねこを待ちました。しばらくすると、ねこが戸を開けて出てきました。
「やあやあ、おんどりくん、いらっしゃい」ねこが手を差し出すと、おんどりはびっくりして言いました。
「ねこさん、どこから出てきたんだい。さっき家の中を見たけれど、誰もいなかったじゃないかい」
「いやいや、ちょっと鍋の中にいたもんでね」
「なんだって、鍋の中ではいもが煮えていたじゃないか」「そうなんだ、鍋の中に入るのがいも料理のこつなんだよ。さあ、おいしいいもを食べよう」
 ねこはおんどりに、うまく煮上がったおいしいいもをごちそうしました。「うん、これはうまい。こげてもいないし、どうすればこんなにうまく料理できるん だろう」
 おんどりは感心して、ねこに聞きました。
「それはだね、おんどりくん。ぼくが鍋の底に入っていたからだよ。だからいもがこげつかないのさ」
「なるほど、なるほど。でも鍋の中はとても熱いだろう」
「まあ熱いけどね、死ぬほどのことはないさ」
「そうか、そうか。さっそくぼくもやってみよう。たしかに鍋の底に入れば、いもはこげないなあ」 おんどりは喜んで、帰って行きました。家に着くと、おか みさんを呼んで言いました。「おいしくいもを煮るこつを教えてやるから、おれの言ったとおりにするんだ」
 おんどりは、大きな鍋を用意して、おかみさんにいもを洗うように言いました。おかみさんがいもをきれいに洗うと、いもを鍋に入れ、自分はいもの下に入り ました。「あんた、鍋の中に入ったりしてどういうつもりかい」
 おかみさんは聞きました。
「さあ、鍋にふたをして、ぐらぐら煮てくれ。そうすれば、とってもおいしくいもが煮えるんだ」 おんどりは自信たっぷりに言いましたが、ねこに教えても らったとは言いませんでした。「なにを言ってるんだい。鍋を煮たりしたら、おまえさんは死んじまうじゃないかい」
 おかみさんは、おんどりの言うことには全く取り合いませんでした。「はやく火をつけるんだ。死ぬような事はないからだいじょうぶだ」
「だめだめ」
 おかみさんは火をつけようとしません。でも、おんどりがあまりにも自信たっぷりに、だいじょうぶだと言うものですから、とうとうおかみさんは、鍋を火に かけました。
 ぐらぐらと鍋が煮立ちました。いもがとてもおいしそうに煮えました。おかみさんが鍋のふたを開けてみると、おんどりは鍋の中で死んでいました。 おんど りが鍋の中で死んだというニュースは、あっという間に村中に広がって行きました。ねこも聞きつけて、おんどりの家にやってきました。 泣いているおかみさ んや子どもたちに、ねこはねこなで声で言いました。
「奥さん、大変なことでしたね。おんどりくんと私は、とてもとても仲が良かったんですよ。仲良しのおんどりくんの埋葬は、ぜひぜひ私にまかせてください な」
 ねこはそう言うと、おんどりの亡きがらを、運んで行きました。そして、ねこはどうしたかって、もちろんおんどりを食べてしまいました。 村のどうぶつた ちは、おかみさんがねこにおんどりの埋葬をたのんだと聞くと、
「ばかだねえ、ねこがちゃんと埋葬するわけがないじゃないか。きっと食べてしまったよ」
 と言いました。 しばらくして、また、ねこがおんどりの家にやって来ました。
「やあやあ、こんにちは。みなさんごきげんはいかがかね」
 ねこが入ってくると、おんどりの子どもたちが迎えました。
「おかあさんはどこだい」ねこは、おんどりのおかみさんも食べてやろうと思っていました。 「おかあさんは、あそこです」
 子どもたちが指さす方をを見ると。なんとそこには、頭のないおんどりのおかみさんがいました。「おいおい、おかあさんの頭はどうしたんだい」
 ねこは驚いて聞きました。
「おかあさんの頭は畑にいます。頭を切って畑に置いておくと、頭が虫を食べてくれるんですよ」
「ええっ、頭だけが虫を食べているって。でも切ってしまった頭はどうなるんだ」
「頭なら心配いりません。またすぐくっつきますから」 ねこはなるほどと思いました。頭のないおかみさんも元気そうです。  ねこは家に帰るとすぐ、自分のおかみさんを呼んで言いました。
「おい、いますぐおれの頭を切り落としてくれ。そして畑に来る鳥を捕まえるんだ」
「おやまあ、頭を切り落としたりしたら、死んでしまうじゃないかい」 
 ねこのおかみさんは、まったく取り合いませんでした。
「そうじゃないんだ、頭は切ってもまたくっつくし、畑の鳥を捕れるんだぜ。さあ早く、切ってくれ」
 ねこがあまりにも強く言うものですから、とうとうねこのおかみさんは、ねこの頭を切り落としてしまいました。
 でも、頭はもう二度と体にくっつくことはありませんでした。  みなさんは、にわとりが寝るときに、頭を羽の中に入れてしまうのを知っていますか。そのときは、まるで頭がないように見えるのです。おんどりのおかみさ んと子どもたちは、こうしてねこに仕返しをしたのでした。 
訳・絵 伏原納知子