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ンゴ民主共和国キブ地方の昔話
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酒はどこから来たか?語り手:マラシ
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むかしむかし、ひとりの猟師がおりました。猟師は森で罠を仕掛けて動物を捕り、村人たちに届けていました。 ある日、猟師はいつもより遠くの森まで出かけて行きました。たくさん獲物を捕ったのですが、もっともっと捕まえようと欲を出して、森の奥深くまで入って行きました。そしてとうとう、帰る道が分からなくなってしまいました。 深い森の中で、猟師は不思議な人に出会いました。でも、それは人ではなくて魔物だったのです。魔物は肩にムゴンバ(バナナの木)を担いでいました。その頃はまだ、人々はバナナがどんな物なのか知りませんでした。魔物は猟師に言いました。 「おい、村へ帰る道を教えて欲しいだろう。だったらこの荷物を持ってくれ。そうしたら、村へ着けるようにしてやろう」 猟師はバナナの木を担ぐと、魔物は目を閉じるように言いました。猟師が目を閉じると、驚いたことにもう村に着いていました。魔物も村の入り口から入ってきました。そして、猟師に言いました。 「さあ、今すぐ家の裏へ行って穴を掘るのだ」 猟師が家の裏に穴を掘ると、魔物は言いました。 「では、このムゴンバをそこに植えるのだ。でもその前にすることがあるぞ。森へ行って、あらゆる動物の血を集め、その穴にそそぐのだ」 猟師は魔物に言われたとおり森へ行き、イノシシやヒツジ、ヒョウやライオンからウサギにいたるまで、ずいぶん苦労して動物を集めて来ました。そして、その血を穴に注ぎました。すると、魔物は言いました。 「ここにムゴンバを植えて待つのだ。その実が熟れてきたら、それで酒をつくるがいい。けれどその酒は、決して一人で飲んではいけない。出来た酒は、村の人みんなを呼び集めて、一緒に飲むのだぞ」 8ヶ月あまり待っていると、ムゴンバの実はみごとに大きく育ちました。猟師は魔物が教えてくれた通りに、カシキシと言う酒をつくりました。 村の人々は、初めて酒というものを飲みました。誰もが酔っ払いました。ある人は、ブタのように泥の中を這い回り、また別の人はヒョウかライオンのように 恐ろしくなりました。またある人はウサギみたいに人をだますと言った具合でした。 この時から、酒と言うものが人々に知られるようになり、人々は酒づくりを始めました。今でも、人々が決して一人で酒を飲まないのは、初めて酒がつくられ た時の約束があるからです。もしあなたが一人で酒を飲んだなら、酒に殺されてしまうでしょう。人が酔っ払うと、その酔いかたはいろいろな動物に似ていま す。これは酒を人々に伝えた魔物が、ムゴンバを植える時に、いろいろな動物の血を注いだからです。 酔っ払いの姿は様々ですが、どれも動物の性質を持っています。このお話は、酔っ払いの訳も教えてくれます。 コンゴ民主共和国東部の酒は主にバナナ酒。木をくりぬいて作ったカヌーのような容器の中で、酒用バナナの実をつぶし、ソルガムと水を混ぜ、発酵させて造 る。飲み頃はほぼ一日。飲みに来る人は拒めず、酒をみんなのもの。 訳・絵 伏原納知子
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