コ ンゴ民主共和国キブ地方の昔話
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蚊と手と耳のはなし

語り 手: マラシ
 

むかしむかし、蚊と手と耳 は仲の良い 友だちでした。蚊も手も耳も結婚し ており、おかみさんがいました。

ある日、蚊と手と耳は、それぞれのおかみさんの実家を訪ねてみようと思いました。
「みんなで、蚊のおかみさんの実家へ行ってみよう。手のおかみさんの実家へ行ってみよう。耳のおかみさんの実家へも行ってみよう」
そう言って出かけていきました。

 蚊と手と耳が、蚊のおかみさんの実家に着くと、突然強い風が吹いてきました。
「ぼくは体が軽いから、風にさらわれてしまったら大変」
蚊はそう言うと、壁にくっついていました。

 やがて食事時になり、ごちそうが運ばれてきました。蚊は言いました。
「まだ風が吹いているから、ここから動けないんだ。君たちは先に食べておくれ。でもぼくの分は残しておいてよ」
けれど、手と耳は出されたごちそうを全部食べてしまいました。

 蚊のおかみさんの実家を後にすると、今度は手のおかみさんの実家に向かいました。そこでも、ごちそうが運ばれて来ると、また風が吹いてきました。
「風に飛ばされないように隠れているから、先に食べておくれ。でも、ぼくの分、残しておいてよ」
蚊はそう言いましたが、手と耳は、また自分たちだけで全部食べてしまいました。

 その後、蚊と手と耳は耳のおかみさんの実家へも行きましたが、ここでも同じことでした。

 蚊はとうとう怒りました。風がやむと飛んで来て、手をチクリと刺しました。
「いたたっ。ぼくを刺さないで、ぼくじゃないよ。全部食べてしまおうと言ったのは耳だよ」
と手は言いました。すると耳は
「ぼくじゃないよ。君の分も食べてしまおうと言ったのは手だよ」と言いました。
「もう、いい」
蚊はもっと怒りました。

 そのときから、蚊は手や耳と仲が悪くなり、毎日追いかけています。蚊がプーンと羽音をたててやって来ると、耳が聞きつけて、手は耳が刺されないように蚊 を追い払います。しかし、ひっきりなしに蚊がやって来るものですから、手と耳は追い払うのが大変で、休む暇もありません。

 はいこれで、おはなしおしまい。
訳 /絵:伏原納知子