ガボンの昔話
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チンパンジーと赤ちゃんの話

語り手 : シメーヌ・ンゼ
 

 あるところに、魚釣りが大好きな女の人がいました。女の人はだんなさんと暮 らしていて、赤ちゃんがいました。
 女の人は魚釣りに行きたかったのですが、赤ちゃんを預かってくれる人がいませんでした。女の人はがまんができず、赤ちゃんをおんぶして魚釣りに出かけま した。赤ちゃんを背中におんぶしたまま魚釣りをしていると、そこに一頭のチンパンジーがやって来ました。
チンパンジーは
「赤ちゃんをおぶってないで、私に預けなさい。私が子守をしてあげるから、思いっきり魚釣りをすればいいよ」といいました。
 女の人は一度は断わりました。
けれど
 「私も子どもがいるから子どもの扱いには慣れている。心配しないで預けなさいな」とチンパンジーが言うので、女の人は赤ちゃんをチンパンジーに預けまし た。
   −唄−
 「こどもなしで、森の中で生きていけるのか、ほら今ここに子どもがいるじゃないか」 

 この唄のあとで、赤ちゃんはチンパンジーの腕の中で眠りはじめました。女の人が魚を釣っている間、チンパンジーは木にぶら下がったり、森の中を散歩した り、とてもよくあかちゃんの面倒を見ていました。魚釣りを終えて、女の人がチンパンジーを呼ぶと、チンパンジーは赤ちゃんを連れて来ました。
 森の中で、子守を見つけた女の人は、しょっちゅう魚釣りに行くようになりました。
毎日このようにしていたので、赤ちゃんはすっかりチンパンジーになついてしまいました。魚釣りに行くと、赤ちゃんはチンパンジーを捜して、チンパンジーの ところへ行ってしまうようになりました。
 ある日、チンパンジーは赤ちゃんを連れて、歌いながら、ずっとずっと森の奥の方へ行ってしまいました。
 女の人はチンパンジーを何度も何度も呼びました。けれど、チンパンジーはもう戻っては来ませんでした。
女の人は頭をかかえて村へ戻って来ました。だんなさんが赤ちゃんはどうしたのかと聞きました。女の人はそこではじめて、チンパンジーが赤ちゃんを連れて 行ってしまったいきさつをを話しました。だんなさんは
 「おまえは、チンパンジーと人間が友だちだと思っているのか」
と聞きました。そして
 「赤ちゃんを捜しに森へ行け。もしこどもが見つからなければ、もう帰ってこなくていい」といいました。
 これでこのお話はおしまいです。人は人であり、動物は動物です。どんなに近づいて、仲良くできたとしても、気をつけなければいけません。人は人であり動 物は動物であるからです。

語り:シメーヌ・ンゼ 通訳:安藤智恵子 再話・絵:ふしはらのじこ

 このお話は2010 年国際霊長類学会で来日したガボンとコンゴの方々を招いて開いた「アフリカ人研究者による昔話の語り」(9月20日堺町画廊)で語られたお話です。
コンゴからはPOPOF のジョン・カへークワさんとバサボセ・カニュニさんが参加しました。 
ガボンから参加したシメーヌさんの語りは、ファン語からフラン ス語へ、そして日本語へと訳 されました。